あ
RNA抽出法 岡田宗仁
RNAの抽出手法にはよく知られた2つの手法がある.1つはグアニジン‐塩化セシウム超遠心法.もう1つはAGPC法である.前者は生体分子の浮遊密度の違いを利用する手法である.RNAはDNAやタンパク質といったほかの生体高分子に比べて浮遊密度が高い.そこで高密度の塩化セシウム溶液を用いた密度勾配遠心にかけると,他の細胞成分は浮遊させたままRNAだけを沈殿として回収することが可能である.しかしながら,この手法の欠点は分子量の小さな5S RNAやtRNAは沈殿しないという点である.一方,後者のAGPC法は前者の手法に比べて超遠心機などの特殊な設備を必要とせず,比較的単純な操作で高純度のRNAが得られる点で優れている.そこで,ここではAGPC法を用いて解説を進める.
RNAを抽出する際難しい点は形がよく似たDNA分子からどう分離するかという点である.AGPC法(Acid Guanidinium-Phenol-Chloroform法)は,酸性条件下におけるDNAとRNAの親水性の差を利用してRNAを分離する手法である.RNAとDNAの違いを見てみると,RNAはDNAに比べて2位の炭素に水酸基が一つ多くある.両者は通常ほぼ中性の条件下にあるといえる.このとき両者のリン酸基部分では水素が解離し,負に帯電して水和することにより高分子コロイドとして水中に分散している.ここで両者を人為的に酸性条件に傾けてやると,リン酸基部分は会合の方向へ傾いて親水性は低下することになる.ところが,このときRNAには2位の炭素に水酸基が一つ多くあることから両者の親水性に差がでる.RNAはDNAに比べて親水性が増すこととなり,ここでフェノール処理を行うとフェノール層にはDNAが溶け込み,水層にはRNAのみが溶け込む.こうしてRNAのみを分離することができるので,この水層を取り出し,アルコールを用いて塩析を行えばRNAが抽出できる.
今回用いる試薬は,一般にRNA抽出試薬として試薬メーカーから販売されているものを使う.この試薬の主な成分はタンパクの変性剤であるGTCと平衡化酸性フェノールであると思われる.RNA抽出操作は非常に簡単であり,大まかに2つの部分からなる.最初はタンパク質や脂質などさまざまな成分からRNAのみを分離する部分.次いで,分離したRNA溶液をきれいにし,好みの濃度にするため行うアルコール沈殿の部分である.
簡単に説明すれば,前半部はサンプルに対して試薬を加え,十分懸濁する.これにCIA(クロロホルム・イソアミルアルコール)を加えてよく混ぜる.2,3分静置したあと遠心分離を行うと水層,中間層,有機層に分かれ,この水層にRNAが溶け込んでいる.後半部はこの水層を新たなチューブに分取し,アルコールによる塩析(イソプロ沈)を行う.遠心分離を行うとRNAが沈殿になるので不要な上清を捨てる.チューブについた塩などのリンスを行うため70%エタノールを加え,再び遠心分離を行う.上清を捨て,好みの濃度になるようRNase free H2Oを加えてRNAを溶かし,溶液は完成する.溶液は-80℃に保存する.
得られたRNAはさらに操作を行ってmRNAのみを抽出したり,逆転写を行ってcDNAにしたりするなどして解析に用いることができる.
アイソトープ標識 高橋
今日使われているアイソトープ標識には様々なものがある。安定同位体についてはその質量や核磁気の違いを質量測定や核磁気共鳴などで観測することができる。が、やはり同位体による標識の花形といえば放射性同位体、ラジオアイソトープによるラベリングだと考えられる。
同位体標識は様々な局面、手法、基質において用いられている。ここでは同位体とはそもそも何かというところからおおまかな原理を説明し、最後に新しい技術として注目されているPET(陽電子断層撮影法)について紹介する。
Western
blotting(ウエスタン・ブロッティング) 須藤みず紀
ウエスタンブロット法は、電気泳動により分離されたタンパク質を膜(メンブレン)へ転写させる方法である。電気泳動によりタンパク質を分離した後、メンブレンと呼ばれる膜へ移動(転写)させ目的分子であるタンパク質を抗原抗体反応などを用いて検出する。泳動後のゲル中において検出では,反応中の分離したタンパク質が拡散する可能性が高い,抗体の反応に時間を必要,ゲルの破損などのリスクがともなうためである.
ゲルからメンブレンへの転写方法は,ウェット式(タンク式)とセミドライ式(水平式)の2種類がある.ウェット式は,Blotting効率は良いが使用する溶液量が多量であり、転写の際発生する発熱をともなう.セミドライ式は溶液が少量で効率もよく、過電流が流れないことから発熱も最小限であり,最近はウェット式が主流である。メンブレン,Blotting溶液は検出目的タンパク質に適応したものを選択することが望ましい.メンブレンへの転写後,目的タンパク質を特異的に検出するために抗原抗体反応を行う.
ウエスタン・ブロッティング法は,近年,狂牛病検査方法としても用いられている。信頼性は高いが,検出されない場合(抗体との相性)もあるため注意が必要である.生物系の研究においては,細胞内のメカニズムを明確にするための裏づけに用いられること多い.
SDS-PAGE 加藤彰久
SDS-PAGEは負の電荷を持つ界面活性剤であるSDSを蛋白質に結合させることで高次構造を破壊した蛋白質をアクリルアミドとビスアクリルアミドによる分子篩のなかを電気泳動させることによって、移動度の違いから蛋白質を分離するものである。以下に簡単な手順を説明する。
1. 試料蛋白質にSDS-PAGE sample bufferを加えて懸濁し、95℃で5分間熱処理する。
2.
Separating gel, Stacking gelの試薬 (APS, TEMEDを除く) をそれぞれ三角フラスコに入れ、10分間脱気する (それぞれ@, Aとする)。
3. ミミ付ガラス板のスペーサーに沿うようにシリコンチューブをおき、その上に前面ガラス板をのせてクリップで固定する (ゲル板サンドイッチ)。
4. 脱気が終わった@にAPSとTEMEDを入れゲル板サンドイッチに流し込み、蒸留水をゲルの上端から1cmまで重層し、10分間静置する。
5. 蒸留水を捨て、AにAPSとTEMEDを入れゲル板サンドイッチに流し込み、コームを差し込んで10分間静置する。
6. コームを抜いて注射器でウェルを洗浄する。
7. クリップ、シリコンチューブをはずしてゲル板サンドイッチを泳動槽の下のバッファー槽に浸してクリップで固定する。
8. 上のバッファー槽にもバッファー (PBS) を入れサンプルをウェルにロードして電気泳動を開始する。
9. フロントラインがゲルの底面から約1cmまできたら泳動をやめて、ゲル板サンドイッチを泳動槽からはずす。
10. ゲル板をはがし、Stacking gelを目的の大きさに切り出す。
ここまでがSDS-PAGEの概略で、このゲルを使ってCBB染色をしたり、またはゲルをメンブレンに転写して抗体を用いてウェスタンブロット解析をすることができる。
HPLC 森 憲一
HPLC(High Performance Liquid Chromatography)とは高速液体クロマトグラフィーと呼ばれ、主に混合物の分離に用いられる。移動層中の物質と固定相の表面との相互作用(親和性、イオン性など)の違いによって分離をおこなうのがクロマトグラフィーであるが、その種類は様々である。移動層に気体を用いるものがガスクロマトグラフィー。液体を用いるものがカラムクロマトグラフフィーやHPLCである。HPLCの特徴としては移動層をポンプの力によって動かすために、高速で正確な分離が可能である点である。
HPLCは脱気装置、ポンプ、ミキサー、インジェクター、検出器、カラムからなる。脱気装置は検出器のノイズの原因となる溶媒中の気体を取り除くものであり、ポンプは溶媒を送る装置である。また、ミキサーは二種類の溶媒を混合するためのもので、インジェクターは分取したい混合物をHPLC内に注入するところ、検出器は物質の検出に使用し主にUV/VIS検出器や蛍光検出器が使われている。カラムは主にODSカラムを用いて分離をおこなう。これらHPLCの説明を図や写真を用いて説明する。
(1) 用語の説明
(2) HPLCの説明
(3) 各装置の説明
(4) 実際の分析結果の例
遠心分離 畑瀬 宏
遠心分離とは強力な加速度を混合試料溶液に加えて混合試料を分離する方法である。その溶媒中での沈降速度から大まかな分子質量が測れる。この遠心分離法は核酸やタンパク質のような生体物質、細胞内顆粒、オルガネラ、あるいは細胞自体の調整や分析に用いられる。
遠心分離法の特徴は
(1)
比較的温和な条件下での処理に終始するので、試料に対する機械的あるいは化学的な破損が少ない
(2)
試料の損失が少ない上に、分画後の各成分の濃度が始めの溶液よりも高くなるので、その後の実験に有利である
(3)
他の方法で分別困難な混合試料も成分間の比重の差、沈降速度の差などの物理的性質の違いによって精度良く分別することができる
などがある。
遠心分離の実験例では
(1)
溶液の比重を塩濃度の調節により変化させ、血清中の脂質タンパク質の分画
(2)
溶液のショ糖濃度の人工的な密度勾配を用いて、ウシ網膜からの桿状細胞外節の分画
を示し、生化学実験における実際の遠心分離の利用について言及した。
か
磁気共鳴画像(Magnetic
Resonance Imaging:MRI) 児玉 奈緒子
MRIは近年、臨床医療のみでなく、再生医療や生理学などの基礎研究でもその重要性が認識されるようになっている。生きたまま、無侵襲、経時的に体内の解剖学的情報が得られるなど大変有用である。また、最近では、生理学的および病理学的な情報も同様に得られることが示されてきている。創薬研究においても、肝機能や抗がん剤の効果を、MRIを用いて測定することが可能で、欧米諸国では前臨床開発や臨床開発にすでに用いられ始めている。
このMRI技術の基本的原理を紹介する。また、測定に関する一般的な注意事項についてのみ、簡単に触れた。我々が一般的にMRI測定においては被験者であり、実際にMRI測定を行うことは、一般的ではないと言える。よって、ここでは、MRI技術の紹介に重点を置くこととした。
Index
1. MRIとは。
2. なぜ、MRIが重要?
3. MRIの原理
4. 共鳴現象
5. MRI装置概略図
6. MRI測定について
7. MRI の画像例・応用例
緩衝液 畑瀬 宏
緩衝液とは多くの場合、弱酸とその塩、あるいは弱塩基とその塩の混合溶液であり、酸またはアルカリの添加による pH の変化をゆるめる作用、すなわち緩衝作用をもつ溶液である。生体系、化学系の多くは酸塩基平衡を含むため pH に敏感であるので、生物や生体組織の生存性や生育が、細胞液や培養液の pH に大きく左右される。よって pH の変化を抑える緩衝液が必要となってくる。特に生化学実験で使用する緩衝液に要求される性質は、
(1) 生化学プロセスの起こる中性付近での緩衝能が大きい (pK が6~8 にある)
(2) 多くの生化学プロセスを妨害しない
(3) Ca2+, Mg2+, その他の金属イオンと錯体や沈殿をつくらない
(4) 可視・紫外光を吸収せず、生化学プロセスの分光測定を妨害しない
(5) 腐敗しにくく保存しやすい
(6)
生体膜の関与する実験では、緩衝液成分が生体膜を透過しない
これらの条件を満たす緩衝液としてグッド緩衝液が開発された。
筋電図法 吹上史康
・表面筋電図(surface EMG )
1.表面電極を貼り付ける対象筋部位を専用のヤスリなどで拭き皮膚表面の抵抗を下げる
2.表面電極を一定の間隔で貼り付ける。このとき関節などでGNDをとる
3.Lowパス、Hiパスなどフィルターを設定し測定する
・針筋電図(needle EMG)
1.針電極挿入部を消毒し電極挿入
2. Lowパス、Hiパスなどフィルターを設定し測定する
・単線維筋電図(single fiber EMG)
針筋電図と同様
蛍光光度法 児玉 奈緒子
分子に光を照射すると、光を吸収したのちそのエネルギーを光として放出することがある。これを蛍光とよび、この蛍光のスペクトルと強度を測定することにより、試料の性質と濃度を調べることができる。これが蛍光分析法である。蛍光分析法の特徴として、ひとつは蛍光を出す分子種が比較的限られていることから目的とする成分を選択的に検出することができる(蛍光を出さない物質については化学反応により蛍光物質へ導き分析を行う)。
もうひとつは、試料が低濃度であれば吸光分析法に比べて高感度の測定が可能であることである。これは吸光分析法が入射光と透過光のわずかな差を検出するのに対して、蛍光分析法ではゼロレベルに対する光量を測定するからである。蛍光スペクトルの形状や強度は、蛍光性分子の周囲の性質(溶液のpH・温度・溶媒の種類共存塩など)により影響を受けることが多いので分析には注意が必要である。また高濃度の試料では吸収が大きすぎて励起光が届かなかったり、放射された蛍光が再吸収されたりして正しいスペクトルが得られない場合もあるので注意が必要である。また、蛍光強度は、吸光分析の吸光度とは異なり相対値である。
ここでは、蛍光光度計の特徴を説明すると共に、実際に測定する際の手順・注意点について説明する。また、近年蛍光が、バイオイメージングなど医療の現場で非破壊測定として用いられていることをふまえ、その応用例についても紹介する。
Index
1. 蛍光光度計とは
2. 蛍光光度計装置概略図
3. 蛍光とは
4. 蛍光を発するもの
5. 測定に関する注意点
6. 測定手順
7. 応用例
血球計算盤 (金平大輔)
血球計算盤とは赤血球および白血球数を顕微鏡下で計測する(目視法)ための溝が刻み込まれた器具。最近はもっと、効率よく短時間で測定される機器が医療現場では使われているためこれは学生実験などでしか用いられなくなった。
必要器具・薬品(赤血球測定の場合)
赤血球用メランジュール、Thoma式計算盤、カバーガラス、顕微鏡、計算機、70%消毒用エタノール、ヘパリン、エーテル、水流ポンプ、シャーレ、ビーカー、採血穿刺具、生理食塩水、キムワイプ
手順
@
予めきれいに拭いておいた計算盤にカバーグラスを密着させNewton輪を作る。
A
70%消毒用エタノールをキムワイプにつけ、採血する指先をよく拭いた後に採血用穿刺具を使い出血させる。
B
血を数滴シャーレに落とし、ヘパリンを一滴加える。
C
赤血球用メランジュールの0.5の目盛りまで血液を吸う。
D
メランジュールの外面に付着した血液を拭き取り、
E
生理食塩水を101まで吸う。
F
メランジュールの両端を図のようにゴム管でふさぎ、約30秒間(100回程度)振る。
G
最初の2,3滴を吹き出した後、@で作成したカバーグラスの端に希釈液を一滴垂らす。
H
2〜3分放置後、計算盤を顕微鏡にセットする。
I
対物レンズ×4でまず計算盤の目盛りを確認し、次に×40にしてピントを合わせる。
J
視野内の16個の正方形の中の血球数について、計算機を使って数える。その際重複を避けるため、各区画中の下辺と右辺線上のものは数え、上辺と左辺のものは数えないようにする。
K
計算盤を動かし、16個からなる大正方形を、にしたがって更に4か所数える。
L
以下の計算式によって求める(終了)。
E=x×400/80÷0.1×200=10000x
E:赤血球数
x: 計測した5か所の赤血球数
顕微鏡 荒木秀夫
2つの点を2つとして識別できる最小の距離を「分解能」といい、肉眼の分解能は、約100mmである。大部分の細胞は、20mmの大きさであり、肉眼での識別は難しい。そこで形態観察機器を用いる必要が有る。光学顕微鏡の分解能は、約0.2mmである。これは、1mm以下は点として同定ができるが、どのような形をしているかを観察する事は難しい。そこで、mmオーダーの微小構造を観察するのに用いられるのが、電子顕微鏡である。電子顕微鏡は、測定条件によっては原子を見分ける事が可能である。
様々ある顕微鏡のうち、電子顕微鏡、特に走査型顕微鏡について述べる。走査型は、試料から放出された2次電子を電気信号に変え、これに応じた明るさを画面上に表示し像を観察する。試料上の照射スポットのXY走査を行い、各点から放出された2次電子の検出信号を画面上の表示点も照射点と同じように走査することで、目的とする試料の2次電子量に対応する相似像を描かせる。走査型で観察する際には、試料が非導電性の場合、高速の電子が入射すると電子の逃げ場が無くなり、試料表面にたい積し障害となるので、導電処理を行う必要がある。走査型顕微鏡によって、どんな形状の試料でも表面構造を観察できる。
実際の表面構造の観察のためには、その前処理が何段階か必要である。一般的に、観測する生物試料の採取し、その組織、細胞、タンパク質の固定化・脱水・乾燥を行い、導電コート処理し、顕微鏡によって観察し像記録を行う。
酵素活性 高橋
酵素の働きは生化学において非常に大きな興味のひとつである。代謝活動のほぼ全ての反応に酵素が関わっており、我々は酵素無くしてはただの一瞬たりとも生きてはいられない。
酵素に対しては様々な研究がなされており、また、その利用にも非常に多くの手法がある。ここでは酵素の働きについて最小限の概要を分子レベルの視点からなぞる形で紹介する。
抗体の作成法 加藤彰久
抗体は特定の抗原に特異的に結合することでその抗原を生体内から除去する機能分子で、その正体は免疫グロブリン (immunoglobulin; Ig) と呼ばれる蛋白質である。抗体には複数個のエピトープ (抗原決定基) を認識するポリクローナル抗体 (主に抗血清) と単一のエピトープのみを認識するモノクローナル抗体がある。以下ではモノクローナル抗体の作成法について簡単に説明する (詳細はpptファイル参照)。
1. 作成しようとしている抗体のエピトープを持つ抗原を動物に免疫する。
2. ELISA (Enzyme-Linked
Immunosorbent Assay) によって抗体価が上がりきった動物の脾臓から脾細胞を摘出する (脾臓には抗体を産生する細胞が多く存在する)。
3. 抗体を産生する形質を持つ脾細胞と永続的な培養が可能な形質を持つミエローマ (骨髄腫) 細胞を混ぜ、ポリエチレングリコール (PEG) を入れることで細胞膜の流動性を高め、遠心分離により近接した細胞間に膜融合を起こし融合細胞を作り、有糸分裂を経て両形質を持つハイブリドーマを作る。
4. HAT選択によりミエローマ細胞と脾細胞のハイブリドーマのみを選ぶ。
5. ELISAにより目的の抗体を産生する細胞のみをスクリーニングし、限界希釈法により1つのウェルに1個の細胞が撒かれる程度まで希釈しクローニングすることで目的の抗体を大量に得る。
このようにして得られたモノクローナル抗体を使うことで、抗原分子の抗原決定基地図 (epitope map) を作ったり、抗体を利用した抗原分子の詳細な機能解析などを行うことができる。これは不均一な抗体を含む抗血清を使用したのでは不可能なことであり、モノクローナル抗体の有用性の一つである。
た
タンパク質の精製法 増田晋一
タンパク質の分離・精製は機能解析・構造解析をするうえで重要である。タンパク質の精製では、失活させず、高純度で、高回収率で、簡単な方法であることが重要である。そのためにカラムクロマトグラフィーがよく使われる。実際に、組み替えタンパク質などを自分で得た場合には目的タンパク質以外にも様々な物質が混入している。よって、粗精製を行ってから、カラムクロマトグラフィーを使った中間精製や最終精製を行う。粗精製には硫安分画や陰イオンクロマトグラフィーなどを使用する。またHisタグやGSTタンパク質などの精製用タグをつけたものであれば、最初からアフィニティークロマトグラフィーを行うことも多い。
粗精製後のタンパク質精製に使われるカラムクロマトグラフィーは、4種類ある。以下に4種類のクロマトグラフィーとその特徴を挙げる。実際の精製実験においては2つ以上を組み合わせて、多段階クロマトグラフィーを行うことで効果が上がる。目的タンパク質や、不純物の性質などを考えて組み合わせることで、費用・精製度・回収率・時間などが変わってくる。よって目的タンパク質や不純物の性質をよく知り、考えることが重要となってくる。また精製後は目的タンパク質が得られているかをSDS-PAGEなどで確認する必要がある。
1.
イオン交換クロマトグラフィー
カラムには正または負の電荷を持つ担体が充填されている。タンパク質の持つ電荷を利用して分画する方法。
2.
疎水性クロマトグラフィー
カラムには担体表面が短い脂肪族鎖、フェニル基等である担体が充填されている。疎水基との相互作用による吸着クロマトグラフィー。
3.
ゲルろ過クロマトグラフィー
カラムには網目状構造を持った多孔性粒子が充填されている。分子量の大きいものほど早く移動することで分画する。
4.
アフィニティークロマトグラフィー
タンパク質と特定物質との特異的相互作用(親和性、affinity)を利用する。抗原−抗体反応、酵素−基質反応などの特異的な結合などで分画する。
タンパク質の定量法 増田晋一
タンパク質の精製などの操作によりタンパク質濃度が未知となった場合に、タンパク質を溶液状態で定量する必要がある。定量法は有名なものでブラッドフォード法、ローリー法、BCA法、紫外吸収法の4つがある。この4つの方法は大きく2つに分けられる。第一にブラッドフォード法、ローリー法、BCA法は発色を利用した方法である。試薬や細かい操作などは違うが基本的な原理は同じである。第二に紫外吸収法は波長280nmにおける吸光度から濃度を求める方法である。それぞれ短所と長所があるので、試料の性質によってその実験方法を選ぶ必要がある。また同じ試料でも定量法によって、違う結果が出てくることも多い。よって一連の実験では同じ定量法を使うこと、また定量法の特徴を考え最も適した方法を選ぶことが重要となってくる。以下に4つの実験方法の概説を記述する。
1.
ブラッドフォード法
酸性溶液中でクマシーブリリアントブルーG-250(CBB G-250)がタンパク質と結合して青色に発色する。溶媒溶液との595nmにおける吸光度の差を測定し、検量線からタンパク質濃度を求める方法。
長所:操作が簡単で、キレート剤や還元剤の影響を受けない
短所:タンパク質により発色に差があり、界面活性剤の影響を受ける
2.
ローリー法
アルカリ性条件下でタンパク質にCu2+を加え、ビューレット反応を起こし、さらにフォリン試薬を加えると青く発色をする。溶媒溶液との波長750nmにおける吸光度の差を測定し、検量線からタンパク質濃度を求める方法。
長所:感度が高い
短所:発色に差があり、多くの物質によって妨害される。また時間がかかる
3.
BCA法
アルカリ性条件下でタンパク質にCu2+を加え、ビューレット反応を起こし、キレート剤であるビシンコニン酸(BCA)を加えると紫色に発色する。溶媒との波長562nmにおける吸光度の差を測定し、検量線からタンパク質濃度を求める方法。
長所:操作が簡単で感度が高い。また界面活性剤の影響を受けない
短所:還元剤、リン脂質、硫酸アンモニウムなどに阻害される
4.
紫外吸収法
紫外吸収法は波長280nmにおける吸光度を元に吸光係数から濃度を逆算して求める方法。
長所:操作が簡便、試料の回収が可能
短所:感度が低く、他に吸収をもつ物質(核酸など)によって不正確になる。また精製初期のいろいろな物質が含まれている場合は正確でない。
凍結切片法 金平大輔
顕微鏡下での組織片の観察では、組織を薄い膜状に切り取り、充分な光を透過させることが重要であるため組織には適度な硬度が要求される。凍結切片法とは固定、未固定の組織を対象として組織を凍結させることにより、組織に薄切に適した硬さをもたせて薄切する手法である。
利点:固定により失活してしまう酵素の活性や抗原の保存が可能。
欠点:凍結・溶融によって細胞の微細構造が破壊されたり、活性が減弱する可能性がある。
必要器具・薬品
クリオスタット、液体窒素、Isopentane、OCTコンパウンド、小型デュワービン、切片支持台、100mlビーカー、ピンセット、スライドガラス、剃刀、ブラシ(大・小)
手順
@
100mlビーカーをデュワービンに入った液体窒素に浸して冷却する。ビーカーにIsopentaneを満たす。
A
標本を冷たいIsopentaneに一分程度浸す。
B
標本をクリオスタット内(-20°C)に入れOCTコンパウンドの薄い層によって切片支持台上に固定する。
C
あらかじめ冷却しておいたカミソリの刃でブロックを台形に削る。
D
支持台を、台形の平行な面がナイフと並び、広い方の橋がナイフの端に向かい合うよう、セットする。ブロックがナイフにあたらないように十分に後退させておく。
E
ナイフを速い切断速度(1切片/sec,
5~10μm)で、ブロックの滑らかな面を作る。
F
ロールプレート法に従って切片を収集する。
G
ロールプレートを持ち上げ、細かいブラシで切れた切片をナイフ後方に動かす。スライドガラスを切片に穏やかに接触させて集める。
切片をスライドガラスの上にのせ終えたら、ブラシでナイフから氷を払う(終了)。
は
PCR法 岡田宗仁
PCRとはPolymerase Chain Reaction(ポリメラーゼ連鎖反応)の略で,微量なDNAを増幅する画期的な方法である.反応は3ステップからなるDNA複製過程を20〜40サイクル行うことで,実験者がデザインしたプライマーに挟まれたDNA配列(欲しい配列)を増幅することができる.
PCRの肝となる部分は3ステップの複製過程とその繰り返しである.3ステップの複製過程はそれぞれ
@DNAの熱変性
Aプライマーのアニーリング
BDNA相補鎖の伸長
に分けられる.@は複製したい鋳型となる2本鎖DNA(dsDNA)に対して加熱して1本鎖DNA(ssDNA)へと熱変性させる.Aは徐々に冷却することによって,実験者がデザインしたプライマーと呼ばれるオリゴヌクレオチドをssDNAに結合させる(アニーリングという).プライマーとは次の伸長過程で起点となるもので,20塩基前後の核酸分子ある.Bは熱耐性を持つDNA合成酵素(Taq DNA Polymerase)を用いて,ssDNAの相補鎖を合成していき,dsDNAを作る.これで実験者の欲しいDNA配列を複製することができる.この3ステップを20〜40サイクル繰り返すことで実験者の欲しいDNA配列を指数関数的に増やすことができる.
PCRの反応にはサーマルサイクラーと呼ばれる,温度をプログラムによって制御できる恒温装置を用いる.時間と温度は次の3ステップを1サイクルとし,これを繰り返すよう設定する.
ステップ@ 熱変性 94℃ 10秒
ステップA アニーリング 68℃ 30秒
ステップB 伸長反応 72℃ 1分30秒
(→ステップ@へ戻り20〜40回繰り返す)
繰り返し終了後 4℃ ∞
反応溶液は1つのチューブに鋳型となるDNA,BufferとH2O,酵素,Primer,そしてdNTPを全て混合するだけで,あとはサーマルサイクラーに任せて反応を進める.増幅したDNA産物はベクターに組み込んでからシーケンスを行って配列を読んだり,サザンハイブリダイゼーション,in situハイブリダイゼーションなどに用いたりすることができる.
分光光度法 荒木秀夫
分子生物学分野において使われる分光機器分析法は、主に4つある。それは、溶液試料の濃度決定、分子間相互作用の検出に用いられる「紫外・可視スペクトル」、立体構造に関する情報を得るのに用いられる「円二色性(CD)スペクトル」、蛍光分子の挙動に関する情報を得るのに用いられる「蛍光分光光度計」、さらに、置換基の種類に関する情報を得られる「赤外スペクトル」である。これらのうち、紫外・可視スペクトルと、円二色性(CD)スペクトルについて記述している。
紫外・可視スペクトルは、溶液試料の濃度決定、あるいは分子間の相互作用の検出など、化学や生化学の世界で最も頻繁に使われる分光法である。液体クロマトグラフの検出などで装置に組み込まれている事が多い。紫外・可視領域の光を試料溶液に照射し、透過光の強度を測定するものである。
チロシン、トリプトファンが280nmに吸収極大を示すことから、タンパク質の定量において、紫外・可視スペクトルを用いて行われる方法は、濃度を調べたいタンパク質溶液の280nmの吸光度を測定し、そこから溶液の濃度を決定するものである。
円二色性スペクトルは、タンパク質や核酸の立体構造に関する研究において重要な情報を与える測定方法の1つである。また、小分子生体物質のキラリティーを決定する手段にも用いられる。光学活性物質の直線偏光を透過させると楕円偏光になって出てくる現象を観測するものである。
生物学的利用としてタンパク質の2次構造・3次構造の解析に用いられる。各二次構造のCDスペクトルには加算性があり、測定したCDスペクトルを、各二次構造の基本スペクトルを用いて最小2乗法で解析し、二次構造成分の割合を推定する事ができる。
ホモジナイズ 森 憲一
ホモジナイズとは均質化するという意味であり生化学的には細胞を壊して懸濁させた状態にすることである。具体的には細胞壁、細胞膜は壊れているが、細胞内の器官は無傷で均一に混ざって存在する状態にすることをいう。生物の細胞の中から物質を取り出すために行われる操作だが、細胞はデリケートなものなのでホモジナイズ時に目的物まで破壊してしまいかねない。細胞破壊〜目的物の分離、精製という風に抽出操作は行うので、一番初めの細胞破壊の段階ではなるべく目的物を壊したくないのは実験者としては当然である。そこでここではホモジナイズ時の溶媒選択やホモジナイズ方法を紹介するので、目的物を破壊しない適当なホモジナイズ方法を見つける手がかりとしてもらいたい。
(1)ホモジナイズ時の溶媒選択
・有機溶媒
・ショ糖液
・緩衝液
(2)ホモジナイズ方法
・ホモジナイザー
・ブレンダー
・超音波破砕
・酵素処理
(3)ホモジナイズを通じての生物細胞取り扱いの注意点
ま
免疫染色法 須藤みず紀
切片上の対象物(抗原)に対する特異抗体を反応させ、さらに抗原抗体反応、あるいは化学反応を巧みに組み合わせて特異抗体と標識酵素の免疫複合体を形成し、最終的に標識酵素の発色反応によって抗原の存在を可視化する染色である.凍結切片法やパラフィン包埋法により作成された生体内組織切片を抗体を用いて染色することにより,目的物質の位置的情報や発現割合などの定量を明確にすることができる.
主な手順は,組織固定→内因性PODブロッキング→一抗体反応標識→試薬の反応発色反応→封入である.標識1次抗体を用いる直接法は,短時間の検出が可能であるため組織への負担が小さいがワンステップの反応により高感度検出は期待できない.1次抗体と標識2次抗体を用いる間接法は,タンパク抗原は複数回の抗原反応基をもつため,反応回数が多く,対象物の高感度検出が可能である.間接法には,PAP法,ABC法,LSAB法,超高感度酵素標識ポリマー法などがある.
免疫染色における注意点は,固定が悪い切片,厚みが不均一でしわや傷が多い切片は,最終的な結果に著しい不利益を与えるため十分に注意が必要であること,抗体の選択は慎重に行い希釈倍率の検討など鍵となる。
毛細血管酸素分圧(PO2)測定 −O2クエンチング法− 吹上史康
燐光性プローブ palladium meso-tetra(4-carboxyphenyl)porphyrin
dendrimer (R2)の調製
生理食塩水20[ml]をビーカーにあけ、そこにヘパリンを一滴垂らす。これを0.4[ml]だけシリンジ(1ml)にとり、暗室から取り出した粉末のR2を0.014[g]はかり取ったものに加える。R2が完全に溶けたら、そのシリンジで吸い取りアルミホイルで遮光する。
PO2測定器PMOD 2000
励起光(524nm)は、深さ500μmまでの微小血管系内のサンプル血液および露出した筋表面の直径2 mm以下の円に焦点を合わせた。PMOD 2000は、48kHz、1回のスキャン当たり20ms以上の燐光信号(700nm)を平均するために16ビットシグマデルタディジタイザを使用する。10回のスキャンが各測定ポイントで実行された。また、信号は2s間隔で繰り返された測定で各PO2m測定の200msの間隔以上のものに関して平均された。
測定
1.対象動物に麻酔をかける
2.頚動脈部を除毛
3.R2 を動脈のカニュレーションによって注入
4.10分から15分の術後準備安定化期間の後、対象筋を露出
5.PMOD 2000の二股に分かれた光導波路の総末端を筋の2-4mm上にセット
6.PMOD 2000を立ち上げキャルブレーション
7.PO2の測定。