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「老化を防ぐ」「二日酔いにいい」「免疫力をアップする」など万能薬的なイメージで、売れに売れている人気サプリメント、コエンザイムQ10(CoQ10=コーキューテン)は、安全か否か。専門家の意見が真っ二つに分かれている。先ごろ、食品安全委員会が「データが不足しているため、安全な摂取上限量を決めることが困難」とする評価書案をまとめたためだ。いったい、どれくらいなら、安全なのか。
【外圧で解禁?】
アンチエイジング(抗加齢)ブームを背景に、男女を問わず、40−60代から絶大な支持を集めているCoQ10。その安全な上限量をめぐる論争の発端はちょうど1年前の8月下旬、厚生労働省が内閣府に設置された食品安全委員会に対し、「1日の摂取目安上限量を300ミリグラム以下にしたい」と諮問したことにある。もともとCoQ10は心不全の治療薬だが、米国からの“外圧”(サプリメントの貿易自由化要求)などを背景に、2001年から日本でも、“食品”(サプリメントなどの“いわゆる健康食品”)として利用できるようになった。CoQ10を、医師が薬として使う場合には、1日の摂取上限量は30ミリグラムと決められている。ところが、消費者が“食品”として利用する場合、大根や納豆などと同様に摂取上限量を決める必要はない、とされる。そこで「何か目安を」という厚労省の指導もあり、メーカーの多くは100〜300ミリグラム摂取を目安量を示すようになった。さらに1年前、厚労省は、摂取目安が上限量300ミリグラム以下で安全か否かを諮問した。ところが、検討を重ねた食品安全委員会が今年6月下旬に出した回答はこうだ。「人が長期間摂取した場合の影響を検討するには、厚労省から提出された資料ではデータが不十分。摂取目安上限量を決めることは難しい」
【健康障害の前例ナシ】
識者はどうみるか。国際コエンザイムQ10協会理事の紀氏(きし)健雄・神戸学院大学薬学部教授は、こう語る。「妥当な判断でしょう。摂取上限量を決められないからといって、『安全ではない』という話ではありません」
どのような意味か。「実はビタミンでも、上限量が決まっていないものがたくさんある(13種類のうちビタミンB1やCなど7種類)。きちんとしたデータがないためだが、もう1つ、通常使う量では、何も問題がないという安心感があっての判断だと思う.
紀氏教授が続ける。「CoQ10は高齢者になると、体内での合成能力が落ちてくるといわれ、サプリメントはそれを補う形になる。その意味で、CoQ10を薬よりもビタミン並みと考えればいい」
市販の摂取目安量は、多くて300ミリグラムだ。紀氏教授は、「この程度で何かが起こることはあり得ない。動物実験を見ると、CoQ10で死んだという例はない。人でも下痢をしたという話は聞くが、過剰摂取で死亡したり、重篤な健康障害が起きた例はありません」と語る。
【臆病なぐらい慎重であれ】
一方、安全性に懐疑的な日本大学医学部消化器内科講師の松井輝明氏に聞いた「300ミリグラムでも問題がないというのなら、そのデータをきちんと示してほしい」。厚労省から食品安全委に出された21本の資料のうち、最も長いのは1日当たり90ミリグラムを9カ月間摂取した試験で、他の多くは2週間から2カ月程度だった。これでは、あまりに不十分、というのが松井氏の意見だ。
長期摂取に、問題があるとすれば何か。「外からCoQ10を摂取した場合、体内で合成する能力が衰えてしまわないか、という点です」。CoQ10は人を含め、動植物の体内で作られるが、その量は20代をピークに、年齢と共に少なくなるという。その不足をサプリメントで補っていいものか、どうか。
日常の食生活の重要性についても説く。「CoQ10は補酵素、つまり補助的な役割を果たすが、主役ではない。CoQ10だけがあっても、栄養素と酸素がなければ役割を果たせず、意味がありません」。少し難しい話になるが、合計60兆個ある人の細胞の1つ1つに、ミトコンドリアと呼ばれるエネルギー生産工場がある。そのミトコンドリアの中で、酸素と協力して栄養素からエネルギーを放出させるのが、CoQ10の役割だ。それだけCoQ10は重要なのだが、栄養素、つまり食事をほったらかしにしておいてCoQ10を摂取しても意味はない、というのだ。「最終的には消費者の判断だから飲むな、とは言えないが、臆病になるぐらいに慎重であってほしい」と、松井氏は注意を促す。食品安全委は審議を継続中で、最終的な答えはまだ先になりそうだ。
ZAKZAK 2006/08/29
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